[夕顔] 和歌が与える「人を豹変させる力」-②-

投稿日:2018-01-03 更新日:

夕顔と光源氏の出会い

 

頭の中将の元カノである夕顔は、「雨夜の品定め」の3ヵ月ほどあとに光源氏と出会う。頭の中将が探しても見つからなかったのに物凄い偶然だ。

源氏が尼君のお見舞いに出向いたが外でしばらく待たされてしまうことになり、暇だなーとぼんやり通りを眺めていると一軒の家に目が留まる。それが夕顔の隠れ住む家だったのだ。

家の中から女性たちがこちらを窺っている気配がする。この辺は貧しい地域だし車も衣装も目立たないようにしているから、自分がアノ「光源氏」とバレることはないだろうと、源氏は気を許す。

粗末な家の軒先に咲く白い花を見て、「あれはなんの花だろう」と源氏はつぶやく。この花こそが夕顔。そしてこれがこの家の女主人のニックネームとなる。

夕顔とは風情のある美しい名前だが…かんぴょう!かんぴょうの花なのだ。光源氏が夕顔の花を知らなかったのも無理はない。当時、食べ物を自分の家で育てるというのは、即ち「貧乏」!上流貴族の周辺で見られる花ではない。源氏が随身に「一房折ってきなさい」と命じると、家の中から可愛らしい童女が出てきて「これに載せて差し上げてください」と白い扇を差し出す。

 

二人の恋の始まり

 

その扇に書かれていた歌が、夕顔と光源氏の恋の始まり。

 

― 心あてにそれかとぞ見る白露のひかりそへたる夕顔の花 ―
「夕顔」巻 夕顔

もしかしてあの方なのかしら、白露に濡れて美しく光る夕顔のようなお方。

 

簡単に言うと、「もしかして、その美しいお顔は光源氏の君?」という歌だ。

女性から歌を贈るのは本当に本当にイレギュラーな出来事で、しかもこの内容。完全に逆ナン!娼婦だったんじゃないかとか、頭の中将と間違えたんじゃないかとか、様々な説がある。つまり、それくらい尋常じゃない行為。

源氏は筆跡を変えて返事をする。立場のある自分が、素性の知れない相手にそうやすやすと正体を明かすわけにはいかない。

 

― 寄りてこそそれかとも見めたそかれにほのぼの見つる花の夕顔 ―
「夕顔」巻 光源氏

近づいて確かめてみたらいかが、たそがれ時の薄明りでほのかに見た花の正体を。

 

イケメンじゃなきゃ許されない歌だ…光源氏だから詠める歌だ…。そしてさすがのプレイボーイっぷりだ。

「雨夜の品定め」以降、身分の高くない女性への興味が湧いていた光源氏は、どうにか相手の正体を探ろうと、敏腕秘書(?)惟光に様子を探らせる。

頭の中将の正妻から逃げて隠れ住む夕顔の正体はアノ惟光を以てしてもすぐには判明しない。しかし惟光は夕顔の女房(世話係)と懇ろになって(さすが!)「たぶん、夕顔」というところまでは突き止める(物語では省かれてしまうが、惟光の恋物語も凄く面白い読み物になると思う)。

光源氏は名を明かさず、覆面をして夕顔に会い続ける。お互いに相手を確かに「誰」とは知らないミステリアスな恋に、光源氏はハマっていく。夕顔の粗末な家は隣近所の物音が聞こえる。「寒っ! 寒っ! あーなんて寒い」、「今年は商売あがったりだねー。どうだいお隣さん」なんていう男たちの声。ゴロゴロと雷より恐ろしい、臼で米をつく音(源氏は何の音なのか分からなくて気味悪がっていた)。

貧しい暮らしは知らないことばかりで、自分を光源氏と知る人もいなくて、現実から離れられる気がして、楽しかったんじゃないだろうか。

頭の中将にも言われていたが、光源氏から見た夕顔も実に弱々しい。言いようもなく素直・柔らかでおっとりしている・考えが深いとかしっかりしているとかいう様子は見られない・ひたすら幼い感じがする・初々しく無邪気・ひたむき・ほっそりとして華奢・いじらしく可愛らしい。紫式部はこれでもかというほど夕顔の頼りない雰囲気を描く。出会いを逆ナンから始めておいて。

<スポンサーリンク>


ついに光源氏が覆面を外す!

 

―夕露にひもとく花は玉鉾のたよりに見えし縁にこそありけれ―
「夕顔」巻 光源氏

夕露に花開くように今私が覆面を外すのも、あのときあの道で姿を見られた縁からだね。

 

そしてこう続ける。「どうですか、あなたが初めに白露の光と言った私の顔は」。物凄い自信だ…圧倒される…。相手が絶対に喜ぶということしか想定していない。そして夕顔はこう答える。

 

― 光ありと見し夕顔の上露はたそかれどきのそら目なりけり ―
「夕顔」巻 夕顔

露に濡れ光り輝くように見えたあの日のお顔は、今近くで見てみるとたそがれ時の見間違いでした。

 

これが、儚い儚い言われている夕顔の歌か!と驚くほど痛恨の一撃!イケメンにイケメンと言っても面白くないからか。純度100%の冗談なのか。どちらにしても、普通の会話の中では言えないような発言だ。「和歌だから言えた」のだ。

夕顔は、歌を詠むときだけ別人のようになる。相手が頭の中将でも、光源氏でも。普段はただただ優しく穏やかな様子なのに、自分から詠みかけるわ苦情を訴えるわ嫌味を言うわ…。和歌は、人を豹変させる…いや、和歌は普段は言えないこともハッキリ伝える勇気を与えてくれるものなのだ。

 →[夕顔] 和歌が与える「人を豹変させる力」-①- へ

源氏物語記事一覧へ

<スポンサーリンク> 


-未分類

Copyright© ReRelish , 2020 All Rights Reserved.